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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6549号 判決

原告 森勝太郎

原告訴訟代理人弁護士 今村征司

同 岡田和樹

同 柳沢尚武

同 小島成一

同 渡辺正雄

同 上條貞夫

同 坂本修

同 高橋融

同 西村昭

同 松井繁明

同 大森鋼三郎

同 田中敏夫

同 小林亮淳

同 秋山信彦

同 永盛敦郎

同 山本眞一

同 田邊紀男

同 小池振一郎

同 小笠原彩子

同 牛久保秀樹

同 小木和男

同 斎藤健児

被告 株式会社テレビ東京

右代表者代表取締役 中川順

右訴訟代理人弁護士 高島良一

同 高井伸夫

同 西本恭彦

同 高下謹壱

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する。

2  被告は原告に対し、金四二万円及び昭和五二年七月一日から毎月二五日限り金八万四〇〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第二項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告

被告株式会社テレビ東京(以下「被告会社」という。)は、放送法によるテレビジョン放送事業等を目的とする株式会社である。

被告会社は、昭和四三年七月一日に株式会社東京十二チャンネルプロダクションとして設立され、当初、昭和三九年四月に民間放送局として開局した東京十二チャンネルの事業主体であった財団法人日本科学技術振興財団テレビ事業本部(以下「テレビ事業本部」という。)の番組制作を行っていたが、昭和四八年一〇月に株式会社東京十二チャンネルと商号を変更するとともに、テレビ事業本部からその債権債務等すべての積極財産及び消極財産を譲り受け、同年一一月一日付けで一般放送事業免許を付与されてテレビ放送事業を引き継ぎ、昭和五六年一〇月には株式会社テレビ東京と商号変更して今日に至っている。

2  原告が被告の業務に従事するようになった経緯

(一) テレビ事業本部は、昭和三九年に東京十二チャンネルが開局すると同時に株式会社東通(以下「東通」という。)に送出業務(運行技術部門の業務をいい、後記録画業務はそのうちの一部である。)及び制作業務を請負わせ、東通の社員をして送出業務及び制作業務の一部を行わせていたが、被告会社設立後の昭和四三年からは被告会社が右各業務を東通に請負わせ、東通の社員が右各業務に携わるようになった。

そして、タワーテレビ株式会社(以下「タワーテレビ」という。)は、昭和四六年一〇月に東通が被告会社に派遣している部門を分離独立させるという形式で設立され、その後は、被告会社はタワーテレビの社員に、被告会社の右各業務を行わせていた。

(二) 原告は、昭和四五年九月東通に入社し、前記請負契約に基づき直ちに被告会社に派遣され、タワーテレビが設立されてからは、同社に移籍し、その社員として被告会社に派遣され、被告会社の右各業務の一部である後述の録画業務に従事してきた。

3  録画業務の内容

被告会社の技術局運行技術部はマスター班、テレシネ班及び録画班の三班に分かれ、録画業務は右録画班が担当しており、同部の副部長が録画班の班長を兼ねていた。

録画業務とは放送局における番組の収録、編集、放送時におけるビデオ・テープ・レコーダー(テレビの映像及び音声の信号を磁気テープに録画し又はそれを再生する機器をいい、以下「VTR」という。)の設置準備、操作及びその監視などを主な業務とするものであって、現場作業である①VTR機器を操作して、収録や再生を行ったり、編集をするオペレート業務、②VTR機器及び付属機器の保守整備業務と、デスクワークである③新たな機器や設備の設計及び導入等の事務、④対外的な折衝等の業務の四つに分けられる。録画業務の中心は、右各業務のうちオペレート業務であり、スイッチャーと呼ばれる責任者と各作業者(以下「オペレーター」という。)とで業務を進めていくが、その作業は収録、再生及び編集の三つに大別される。

(一) 収録及び再生作業

オペレーターは、先ず、スタジオ使用表によって収録又は再生の作業を選択した後、収録用棚等から該当するビデオ・テープを取り出し、指定されたVTRにそのビデオ・テープをかけ、併せて「分配カード」をVTRにセットし、指定されたスタジオ等に信号線を接続する。次に、収録の場合は、各種調整操作を行い、ビデオ・テープの初めの部分に再生時に必要な調整信号を収録し、ビデオ・テープ上の頭出し所定位置でVTRを停止させ、接続先のスタジオ側に準備が完了した旨連絡する。また、再生の場合は、既に収録されているビデオ・テープ上の再生調整信号によって、調整を行った後にビデオ・テープ上の所定の頭出し位置でVTRを停止させる。そうすると、VTRの接続先であるスタジオ側の番組担当者等のリモート・コントロール・ボタンの操作又はその合図によるオペレーターの操作によってVTRを作動させ、オペレーターは、その直後にVTRが正常に作動しているか否かを確認する(前段階)。

VTRによる収録又は再生に際しては、主としてスイッチャーがモニター卓でその作動状況を監視し、スタジオ側でVTRを使用する必要がなくなると、右番組担当者等のリモート・コントロール・ボタンの操作又はその合図によるオペレーターの操作によりVTRを停止させる。

収録完了後は、オペレーターは正常に番組の信号が記録されたか否かを検査するため、そのビデオ・テープを部分的に再生し、確認を行った後に作業伝票等に所定事項を記入して放送棚にそのビデオ・テープを収納する。また、再生が完了した場合は、使用済みのビデオ・テープをVTRから取り外し、作業伝票等に所定の事項を記入した後に終了棚にそのビデオ・テープを収納する(後段階)。なお、前段階と後段階のオペレーターは必ずしも同一人とは限らない。

(二) 編集作業

オペレーターは、再生用と収録用のビデオ・テープを二台のVTRにそれぞれセットし、番組担当者が、再生画面を見ながら放送に使用する部分を決定すると、オペレーターはその箇所のビデオ・テープの頭出しをし、再生操作を行いながら収録用ビデオ・テープに転写する作業を行う。右作業が終わると、番組担当者は収録されたビデオ・テープを再生してその結果を確認し、番組担当者による編集が終わると、オペレーターは作業伝票等に所定の事項を記入して、そのビデオ・テープを放送棚に収納する。

4  事実的使用従属関係による雇用契約の存在

原告と被告会社との間には、形式上明示の雇用契約は存在しないが以下に述べるとおり、①被告会社と原告との間に業務遂行上指揮命令関係が存在すること、②被告会社は原告に対し労務管理を行っていること、③被告会社は原告の労働条件の決定に支配力を有していることの三つの実態があるから、使用従属関係があり雇用契約が成立している。

(一) 録画業務における指揮命令関係

(1) 原告は、録画業務のうちオペレーターとして主にオペレート業務に従事していたものであるが、右オペレート業務は送出局送出部録画班所属の被告会社社員と下請会社の従業員が行い、スイッチャーが一人、オペレーターが三人ないし五人で一つの組を構成し、四つの組が下請会社の従業員も加え変則三交代制(シフト勤務)すなわち一勤が九時から一七時三〇分まで、二勤が一〇時から一八時三〇分まで、三勤が一二時三〇分から二一時まで、四勤が一六時三〇分から二四時まで(ただし、半日の日がある。)という勤務形態で業務を遂行していた。したがって、原告ら下請会社の従業員は、被告会社の録画業務を遂行するオペレーターの一員として、被告会社の決定する右勤務形態に被告会社社員と共に渾然一体として組み込まれていた。そして、録画、再生及び編集作業におけるVTR機器の操作はすべて被告会社の社員たるスイッチャーがオペレーターに対して指示をして行うものであり、その指揮命令関係は直接的であり、タワーテレビがこれに関与する余地はなかった。

業務の指示は、録画日誌によって行われることもあり、この場合に原告ら下請会社従業員に対する指示も、被告会社の社員に対する指示と同様に行われていた。

また、録画班では、班会と称される会議が月に一回開かれ、原告ら下請会社従業員も被告会社の社員と同様に出席し、この班会においては、新しい番組の連絡事項や日常の勤務に関すること、VTR機器の保守整備等について話し合われ、また新しい機器についての指導も行われた。

なお、VTR機器の保守についても、右班会において、被告会社が同社社員及び原告ら下請会社従業員に対して、それぞれの担務を決定、指示し、両者が渾然一体となってVTR機器の保守作業を行っていた。

(2) 他方、東通及びタワーテレビは原告に対し、作業の指揮監督を行った事実はなく、録画業務についても、その必要とする機械、設備等を有することなく、事務用品に至るまですべて被告会社に提供させており、使用者の実態を有していなかった。

(3) 右に述べたとおり、原告は、具体的な業務遂行の指揮命令について被告会社社員と全く同様に取り扱われ、右社員らと渾然一体となって、被告会社の指揮命令の下にその業務に従事してきたのである。

(二) 労務管理

(1) 被告会社は、原告を含む録画班班員全員から週休希望表によって各人の希望する休日を聴取したうえで、これを調整して各人の週休日を決定し、その上で、休日の翌日が夜勤となり、それ以後、日勤、早出勤というように出勤時刻が早まる形態で勤務することになっていた。したがって、原告の週休日は、他の録画班班員と同様に被告会社が決定し、勤務形態も当然被告会社の決定によるものである。休暇についても、原告は被告会社に休暇を申請し、その承諾を得て休暇をとっていたのであるから、被告会社がその決定権を持っていたものであり、また、残業や早出等の予め指示した勤務時間帯の変更は、被告会社が直接原告に指示していたものである。したがって、結局、原告の勤務時間は被告会社が決定することになっていたのである。

(2) また、被告会社は、以上の出退勤時間の管理や業務遂行上の勤惰の管理を行っており、原告が勤務開始時刻に遅れる場合にも被告会社にのみ連絡し、これに対する注意等も被告会社が直接原告に対し行っていた。

(3) 他方、東通やタワーテレビが原告に対する人事考課を行っていた事実はなく、また、昭和四八年五月二九日に発生した放送事故の処理についても、原告は被告会社から事情聴取を受け、厳重に注意するように警告されてはいるものの、タワーテレビからは事実関係の聴取さえもされなかった。

(三) 労働条件決定に対する支配力

まず、原告は東通から被告会社に派遣されるに際し、被告会社の役職者等に紹介され、被告会社は、右役職者等が原告に会ったうえで原告の採用を決定していたこと、請負代金の支払は実質的には下請会社従業員に対する賃金の支払となっていたこと、被告会社は深夜宅送費(深夜帰宅するためのタクシー代等の費用)、朝食、夜食などを直接原告に支給し、夏季及び冬季一時金を支払うなど原告の採用及び労働条件を直接決定していた。しかも、被告会社は原告が厚生施設を利用することを許しており、また、原告に被告会社の名称入りの作業服を着用して仕事をさせ、被告会社は原告を対外的に被告会社の社員であると表示させてきた。

(四) 以上のとおり、原告と被告会社との間には使用従属関係があり、さらに、三田労働基準監督署及び港公共職業安定所が被告会社への立入調査の結果、三田労働基準監督署は、昭和五一年一一月に、原告ら派遣労働者の労働実態から被告会社と原告らとの間には使用従属関係が認められ、労働基準法二四条違反の疑いがあるので是正措置を講ずべき旨の、港公共職業安定所は、これより先の同年八月に、被告会社が職業安定法に違反しているとしてその是正措置を講ずべき旨の各指導を行ったことからして、原告と被告会社との間には極めて強度の使用従属関係が認められる。したがって、両者の間には雇用契約関係が存在しており、右契約は原告が被告会社に派遣された昭和四五年九月に成立し、賃金の額は原告がタワーテレビから受け取っていた一か月基準内賃金額金八万四〇〇〇円である。

5  黙示の合意による雇用契約の成立

雇用契約の一方の当事者としての使用者の雇用する意思とは、労働者の従属労働の提供を受け入れ労働力を処分する意思であり、前記3で述べたとおり、被告会社は原告を直接その指揮監督下に置いて使用し、従属させて、自ら使用者として振る舞ってきたのであるから、雇用する意思が存在したことは明らかである。また、原告も被告会社に使われているという認識の下に被告会社に労働を提供し続けてきたのであるから、雇用される意思があったこともまた明らかである。したがって、原告と被告会社との間には黙示の雇用契約が成立しており、その時期及び賃金の額は前記4(四)のとおりである。

6  法人格否認による雇用契約の成立

(一) 前記2に述べたとおり、東通及びタワーテレビは形式上は被告会社と請負契約を締結し、その義務の履行として雇用契約を締結した原告を被告会社に派遣するという形態をとっていたが、その実態をまったく備えていないから、その限りにおいてタワーテレビの法人格は形骸化している。

(二) 東通やタワーテレビには被告会社の録画業務を請負っているという実態はまったくなく、東通やタワーテレビは被告会社との関係においては違法な労働者供給事業を行い、被告会社は東通やタワーテレビを利用することによって、本来なら法律上負わなければならない使用者としての責任を免れようとしたのであり、いずれも職業安定法四四条、労働基準法六条を脱法しようとしたものである。したがって、東通及びタワーテレビの法人格は濫用されている。

(三) したがって、タワーテレビの法人格は形骸化及び濫用のいずれの点からも否認され、タワーテレビは被告会社と一体とみられるべきであるところ、原告はタワーテレビと形式上雇用契約を締結しているのであるから、原告と被告会社との間に雇用契約関係が存在しているものというべきである。

7  就労拒否

ところが、被告会社は昭和五二年一月末日をもってタワーテレビとの間の送出部門の契約を打ち切ったとして、原告が録画業務に従事することを拒否している。

8  結論

よって、原告は、原告と被告との間に雇用契約が存在することの確認並びに被告に対し右雇用契約に基づき就労を拒否された日である昭和五二年二月一日から同年六月三〇日までの間の未払賃金合計として金四二万円及び同年七月一日から毎月二五日限り賃金として金八万四〇〇〇円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。

東通は、昭和四六年一〇月一日に東京十二チャンネル現業部を独立させて、タワーテレビを設立し、その後は、その業務をタワーテレビに請負わせるようになった。タワーテレビは放送番組の企画、制作、販売等を営業の目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、昭和五二年当時の従業員総数は約三〇名である。被告会社は、昭和五一年四月一日には直接タワーテレビと技術業務請負契約を締結した。また、タワーテレビが独立した際に、東通は原告との雇用関係をもタワーテレビに譲渡し、原告はこれを承諾したことによりタワーテレビが原告の雇用主となったものである。したがって、原告は自らが締結している雇用契約の相手方が被告会社ではなく、タワーテレビであることを十分承知していたのである。

2(一)(1) 同4の冒頭の事実のうち、原告と被告会社との間に形式上明示の雇用契約が存在しないことは認め、その余は否認する。

(2) 雇用契約関係が存在しているというためには、単に事実上の使用従属関係があるというだけでは足りず、まずそれが当事者間の契約に基づくものでなければならず、それには労務の給付とその対価として賃金支払が約定されていることが必要であるが、被告会社と原告との間にはそのような合意は成立していない。

(二)(1) 同4(一)(1)の事実のうち、原告がオペレーター業務に従事していたこと、右オペレート業務は送出局送出部録画班所属の被告会社社員と下請会社の従業員が行い、スイッチャーが一人、作業者が三人ないし五人で一つの組を構成し、四つの組が下請会社の従業員も加え変則三交代制で業務を遂行していたこと、録画日誌が存在したこと、録画班では班会が月に一回開かれ、原告も被告会社の社員と同様に出席し、そこでVTR機器の保守管理や新しい機器の説明が議題となったことはいずれも認め、その余は否認ないし争う。(2)及び(3)の事実はいずれも否認ないし争う。

(2) 被告会社のタワーテレビ及びその従業員に対する勤務管理は以下のとおりである。

ア 被告会社は、タワーテレビとの基本請負契約に基づき約六か月ごとに一週間ないし二週間の基本作業の配分を定め、タワーテレビに対し、各曜日毎の所要人員及び作業時間帯を表示した業務委託書をもって具体的に発注しており、請負業務の内容については、一か月毎に運行技術部デスクを窓口としてタワーテレビ側と確認することとなっていた。

イ タワーテレビの管理職は、右業務委託書に基づいて自社従業員の作業配分を行い、各週間の基本勤務表を作成し、その明細を被告会社運行技術部デスク又は録画班班長等に通知することとなっており、右基本勤務表は「業務(作業)表」あるいは「週間勤務表」と呼ばれるものであるが、それらにはタワーテレビの管理職であるデスク、課長、部長がそれぞれ確認の捺印をしていた。

(3) 被告会社の送出部は、タワーテレビからの右通知に基づいて同社社員の氏名とその作業時間帯を記入した録画班員の週間の勤務表を作業場所入口に掲示しているが、被告会社がこれによって出勤時刻などを指定したものではなく、また、下請会社の従業員がオペレーターの一員として働いているが、これは被告会社がオペレーター業務を下請会社に請負わせていたもので、共同作業のチームの一員として組み込んだものではない。

(4) タワーテレビ又は同社従業員本人の都合により右従業員の勤務を変更しようとする場合は、タワーテレビから被告会社送出部に対して口頭もしくは勤務変更届けをもってその旨を通知し、他方、被告会社の都合によってタワーテレビ社員の作業時間帯を変更する必要がある場合には、被告会社はタワーテレビに対し、あらかじめ口頭もしくは文書をもってその旨を通知し、同社の承認を得てこれを実施していた。

(5) 原告らタワーテレビ社員は同社の指示により被告会社に出勤し、タワーテレビの備品であるロッカーに収納してある同社支給の作業衣に着替えて、VTRを設置してある部屋(以下「VTR室」という。)で録画業務を行っている。なお、作業に必要な工具についてもタワーテレビが一部支給しており、被告会社から提供を受けている機材の使用については使用料を被告会社に支払っている。

(6) スイッチャーが、スタジオ使用表(当日の放送及び番組作成のために使用するスタジオ及びVTRを使用する時間帯を記入した表)に、使用するVTRを振り当てて記入する際には作業者名の指定はしておらず、オペレーターはスタジオ使用表を見て適宜自分が作業しようとするVTRを選択し、所要の操作をするに止まり、スイッチャーの右スタジオ表への記入がオペレーターに対する指揮、命令となるものではない。

(7) タワーテレビの週間又は一日の勤務時間数は被告会社のそれと異なっており、業務終了後も原告らタワーテレビの従業員はVTR室より退出し、タワーテレビの出勤簿に記入したあと帰宅する。なお、残業は業務を終えるに必要な時間によって決定されるものであるが、如何なる録画業務を行うかは本人の選択によって決められていたから、残業は自主残業の形をとっていた。

(8) 録画日誌は、録画のための業務やVTR運用の記録と作業上の連絡、引継ぎ事項の伝達などを目的とする日誌であり、下請会社の従業員を含め、録画に従事するもの全員が必要に応じて任意に記入しているものであって、上司が部下に対してなす指揮や命令ではない。

(9) 録画班の班会は、被告会社が録画業務を運営していくために被告会社社員を中心に同業務に従事しているものをも出席させて開催していたが、その議題は新しい機器の説明等が主であり、相互連絡のために勤務、保守管理、福利厚生等の事項にも及んだが、班会において作業担務を示したからといって、これをもって直ちに被告会社が原告に対し指揮したことにはならない。また、原告ら下請従業員はVTR機器の保守にも当たっていたが、これはVTR作業を円滑に行うために日常的又は必要に応じて行う付随的作業であって、しかもVTR機器を多数のオペレーターが使用することから、請負っている企業の作業者をも含めたオペレーター全員で各機器につき一応の担当者を決めて行っていたものであるから、これもまた指揮、命令ではない。

(10) 東通が原告を採用した後、原告を被告会社の録画業務に就かせるにあたり、前任者である東通の従業員植松一利に昭和四五年九月一七日から三〇日までの間原告を指導、教育させ、原告はこれによって録画業務を習得したのである。

(三)(1) 同4(二)の事実のうち、被告会社が原告を含む録画班班員から週休希望表によって各人の希望する休日を聴取していたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(2) 原告らに対する労務管理の実態は以下のとおりである。

ア 原告の出退勤管理はタワーテレビが行っていた。即ち、被告会社の技術業務に従事するタワーテレビ従業員は、作業を終了するとマスター室等に備え付けた出勤簿に勤務時間等を詳細に記入し、タワーテレビに提出していた。そして、この出勤簿は被告会社の関係業務に同じく従事しているタワーテレビの管理職が管理し、タワーテレビが毎月回収したうえ、関係管理職が検印していたものである。また、時間外勤務を行った場合には特別な様式に基づく報告書を作成して、より具体的にその状況をタワーテレビに報告させていた。

イ 原告は、タワーテレビに対して有給休暇や特別休暇などを請求しており、タワーテレビの従業員の休暇届は本人から同社に提出するのであって、被告会社はタワーテレビの従業員の休暇届は一切受理していない。

ウ タワーテレビはその従業員に対し緊急連絡に備えて緊急連絡場所等を申告させている。尤も、被告会社も緊急事態発生のときタワーテレビ従業員を含めて関係下請会社の従業員に直接連絡することがあるが、それはタワーテレビら下請会社の了解の下になされていることである。

エ タワーテレビの管理職は、休暇や遅刻、早退等につき原告ら従業員の各種届出や申告、申請等の適否を判断し、原告らの勤怠を管理しており、タワーテレビはそれらに基づき毎年二回人事考課を実施し、原告も右人事考課の対象となっていた。被告会社のスイッチャーがタワーテレビの従業員の勤怠の管理を行っていた事実はない。

オ タワーテレビの従業員の職務の遂行に関し過誤があったときは、タワーテレビが被告会社に対し請負契約上の責任を負うことになっており、タワーテレビ従業員は被告会社に対して直接責任を負っていない。

被告会社は同社社員に業務上の過失等があった場合には、懲戒の対象とするが、原告の過失により昭和四八年五月二九日に発生した放送事故の際には、被告会社は業務請負契約を締結しているタワーテレビに対しその不履行責任を問い、タワーテレビの責任者が被告会社に顛末書を提出し、その責任を明らかにしたが、被告会社が、この事故に関して原告に対し注意処分その他の懲戒を行うなどの責任追及をした事実はない。

(四)(1) 同4(三)の事実のうち、原告が東通から被告会社に派遣される際に、被告会社の管理職等に紹介されたこと、被告会社は深夜宅送費並びに朝食及び夜食等を直接原告に支給していたことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(2) 原告の労働条件即ちその採用、賃金、労働時間等はタワーテレビの就業規則の定めに従って決定されており、昭和四六年一〇月以降昭和五二年二月までの賃金は夏季及び冬季の各一時金を含めすべてタワーテレビから受領していたものである。

(3) また、原告らの福利厚生等の実態は次のとおりである。

ア タワーテレビは、その従業員を被保険者として社会保険に加入しており、原告も同様の取扱いを受けていた。

イ タワーテレビは、従業員各人のサイズにあった業務用のジャンパーを支給し着用させている。なお、被告会社はタワーテレビの従業員にも深夜宅送や宿泊室の利用の便宜を与えていたが、これは被告会社の業務に関係を持つ者に対する便宜供与として行われたものであって、被告会社社員に限るものではなかったためである。

ウ また、タワーテレビは従業員の慰安旅行やリクレーション大会に当たってその費用を負担し、全社新年会をタワーテレビ事務所で開催するなど、懇親の場を設け、行事をとり行っていた。

(五) 同4(四)の事実のうち、被告会社が原告主張の行政機関からタワーテレビとの間における契約関係につき労働者供給事業禁止に触れる旨の指摘を受けたことは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。

3  同5及び6の事実はいずれも否認する。

4  同7の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、原告と被告会社との間には形式上明示の雇用契約関係は存在しないが、実質的な使用従属関係が存在しており、法的には両者間に雇用契約関係が成立していたものと認めるべきであると主張するので、まずこの点について検討する。

雇用契約は、労働者が使用者の指揮、監督の下に労務を提供し、これに対し、使用者がその対価として賃金を支払うことを内容とする債権契約であり、本来、通常の契約と同様に当事者の意思の合致によって初めて成立するものである。したがって、使用者と労働者との間に事実上の使用従属関係が存在していたとしても、このことから直ちに両者の間に雇用契約関係が成立していると解すべきものではなく、両者の関係が、指揮命令、勤務及び労務管理の程度等の諸点からみて使用者と労働者との間に黙示の雇用契約関係が存在しているものと評価され得る場合に限り、両者の間に雇用契約関係が成立しているものと解するのが相当である。

三  そこで、右の立場から原告と被告との間に雇用契約関係が存在するか否かにつき検討する。

1  録画業務遂行上の指揮命令関係について検討する

(一)  録画業務とは放送局における番組の収録、編集、放送時におけるVTRの設置準備、操作及びその監視などを主な業務とするものであって、原告主張の四つの業務にわけられること、録画業務の中心は右各業務のうちオペレート業務であり、右業務はスイッチャーとオペレーターとで進めていくものであること、収録、再生及び編集の各作業内容が原告主張のとおりであること、原告が主としてオペレーター業務に従事していたこと、右オペレート業務は送出局送出部録画班所属の被告会社社員と下請会社の従業員が行い、スイッチャーが一人、作業者が三人ないし五人で一つの組を構成し、四つの組が下請会社の従業員も加え変則三交代制で業務を遂行していたこと、録画日誌が存在したこと、録画班では班会が月に一回開かれ、原告も被告会社の社員と同様に出席し、そこで機器の保守管理や新しい機器の説明が議題となったことはいずれも当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない各事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和四五年九月以降被告会社において、録画業務のうち主として現場作業であるオペレート業務にオペレーターとして従事していたものであるが、右オペレート業務は送出局送出部録画班所属の被告会社社員と下請会社の従業員が行い、スイッチャーが一人、オペレーターが三人ないし五人で一つの組を編成し、四つの組が下請会社の従業員も加え変則三交代制すなわち一勤が九時から一七時三〇分まで、二勤が一〇時から一八時三〇分まで、三勤が一二時三〇分から二一時まで、四勤が一六時から二四時まで(ただし、半日の日がある。)という勤務形態で業務を遂行し、六か月ごとに勤務替えを行っていた。そして、右勤務形態は、原告を含めた録画班班員全員から週休希望表により希望する休日を聴取したうえで、被告会社が勤務表を作成し、定めていた。

(2) 録画業務は、当該番組の担当ディレクターと常に連絡を取りながら作業を進行させる必要があり、その連絡窓口がスイッチャーである。スイッチャーは、編成部スタジオ管理課によって作成され前日に配布された当日のスタジオ使用表に基づいて実際のVTR機器をその作業に割り振り、オペレーターは出勤してきた順に逐次このスタジオ使用表を見ながらどの作業をするかを決め、所定の収録テープ等をVTR機器にセットして作業を進めることになっていた。また、スイッチャーは、VTRによる収録又は再生に際しては、モニター卓(「分配スイッチャー卓」ともいう。)でその作動状況を監視する業務を行い、放映中のVTRが故障をしたような緊急の場合には、オペレーターに対して指図をすることもあった。なお、スイッチャーの仕事は、特に管理職が行うものではないが、必ず被告会社社員が行い、下請会社の従業員が行うことはなかった。

(3) またVTR室には録画日誌が置かれ、そこには日常の出来事や伝達事項が記載され、録画業務に携わる全員が必要があれば記載することになっていた。具体的には、VTR機器について保守、整備した作業内容や業務引継ぎの日程の連絡等が記載されていたが、そのほかに、特別番組の放送のための早朝出勤の指示や突発的な番組の担当の指示が記載され、このような業務上の指示が、被告会社社員に対してだけではなく、下請会社従業員に対しても行われることもあった。

(4) さらに、録画班においては班長の招集により班会と呼ばれる会議が一か月に約一回開かれ、新番組や特別番組についての注意事項及び連絡事項、VTR機器についての保守整備の報告、勤務変更の場合の引継ぎ事項、新しい設備、機器についての説明等VTR業務全般についての指示や話合いが行われ、右班会には原則として録画班に所属する者全員が参加することになっていた。

以上の各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(二)  右認定の各事実によると、被告会社送出局送出部録画班におけるオペレート業務の勤務体制は、変則三交代制を敷き、一つの班はスイッチャー一人と数人のオペレーターで構成され、下請会社の従業員はオペレーターとして右変則三交代制の中で被告会社の勤務時間割に従ってその社員と同様に録画業務に従事しており、また、業務遂行過程においても、スイッチャーの完全な支配下にあるわけではないが、スイッチャーの指示に従って業務を遂行する地位にあるものであるうえ、下請会社の従業員も録画日誌や班会において班長等管理職の指示を受けていたのであるから、原告が録画業務における任務を遂行する上において、原告と被告との間に、相当強度の指揮命令関係があったことは否定できない。

2  そこで、東通ないしタワーテレビと被告会社との関係、原告に対する勤務及び労務の管理並びに原告の労働条件の決定等について検討する。

原告が昭和四五年九月に東通に入社し、東通と被告会社との間の送出業務及び制作業務の一部についての請負契約に基づき直ちに被告会社に派遣され、タワーテレビが設立されてからは、同社に移籍し、その従業員として被告会社に派遣され、被告会社の右各業務の一部である録画業務に従事してきたこと、被告会社が原告を含む録画班班員から週休希望表によって各人の希望する休日を聴取していたこと、原告が東通から被告会社に派遣される際に、被告会社の管理職者等に紹介されたこと、被告会社は深夜宅送費並びに朝食及び夜食等を直接原告に支給していたことはいずれも当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない各事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  東通ないしタワーテレビと被告会社との関係

(1) 被告会社は、その設立後の昭和四三年から送出業務及び制作業務の一部を東通に請負わせ、東通の社員が右各業務に携わるようになったが、東通は昭和四六年一〇月に右請負契約を担当していた東京十二チャンネル現業部を分離独立させてタワーテレビを設立して自己の下請けとし、その後は、タワーテレビの従業員が被告会社の録画業務等の一部を担当することになった。そして、被告会社は昭和五一年四月一日に直接タワーテレビとの間において運行技術業務及び制作技術業務についての請負契約を締結した。

(2) 被告会社は、タワーテレビに対し右請負契約に基づき運行技術業務については一か月単位で一括請負という形式で業務委託を行い、昭和四七、八年ころからは、被告会社の運行技術部の責任者がタワーテレビから派遣されてきている従業員から事前に休暇や勤務につきその意向を聴取したうえで具体的な業務内容を決定し、業務委託書によって具体的に勤務時間を指定して業務委託をするようになり、昭和五一年ころからは運行技術業務委託について一か月ごとに注文書を発行するようになった。これに対し、タワーテレビでは、「業務(作業)表」に具体的に派遣する従業員の名を記入して被告会社に返送するが、業務内容の詳細については双方の責任者が打合せを行い、その上で被告会社は、録画班全体の週間の勤務表に各班員の氏名と作業時間帯を記入して業務を遂行していた。そして、請負代金は月額単位で昭和五一年三月までは東通に、それ以後はタワーテレビに支払われていた。また、作業に必要な工具もタワーテレビで一部購入して従業員に支給しており、被告会社から提供を受けている機械についてはタワーテレビが被告会社に使用料を支払っていた。

(二)  原告に対する勤務及び労務の管理

(1) 原告の勤務時間は、拘束八時間実働七時間で、週一日休日となっており、これは昭和四六年一二月に労働基準監督署に届け出されたタワーテレビの就業規則の規定と同様であった。これに対し、被告会社の勤務時間は八時間を原則とし、週一日の休日のほかに隔週でもう一日が休日となっていた。したがって、原告は、タワーテレビの勤務日で、かつ被告会社に勤務のない日はタワーテレビ本社に出勤して、上司の指示に従っていた。

また、被告会社の変則三交代制の四勤は一六時三〇分から二四時までであるが、タワーテレビから派遣された原告ら従業員の四勤は一六時三〇分から二四時三〇分までであった。

(2) タワーテレビは独自に出勤表を用意し、被告会社に派遣されていた原告ら従業員は、原則として勤務終了後に、作業が深夜に及ぶ場合は翌日に、終業時間、終了時間、残業時間数等を右出勤表に記入して管理者を通してタワーテレビの総務課に提出し、総務部長等が検印していた。

(3) 被告会社は、昭和四八、四九年ころからはタワーテレビから派遣されていた原告ら従業員につき時間外勤務が予想される場合には、予めタワーテレビにその旨文書で提出し、右勤務の必要性が急遽当日の夜に発生した場合には、翌日口頭でその旨をタワーテレビに伝達していた。そして、時間外勤務をした原告ら従業員は事後に時間外勤務の報告を書面でタワーテレビに提出していた。

また、原告ら従業員の年末年始や同盟罷業時の勤務状況について、原告と同様に被告会社に派遣されているタワーテレビの管理職が詳しくタワーテレビに報告していた。

(4) 原告は、休暇を取りたいときは、前記のとおり被告会社の週休希望表に記入すると同時に、休暇届を現場の管理職を通してタワーテレビに提出していた。また、タワーテレビは従業員に対し緊急の事態に備えて、緊急連絡場所等を申告させており、原告も申告していた。しかし、被告会社もまた、下請従業員に同様の申告をさせ、直接連絡することもあった。

(5) タワーテレビにおいては、昭和四六年の会社設立時以来年に二、三回、原則として現場の責任者である課長ないし主任が従業員の評価を行い、総務部長が確認したうえで昇給時等にその結果を活用しており、原告も右人事考課の対象となってきた。

(6) タワーテレビの従業員が、被告会社の業務遂行上その過失により放送事故を起こした場合には、被告会社からタワーテレビに対し、書面による注意があり、タワーテレビは顛末書等の詫び状を差し入れるという形式で事故処理がなされている。現に、原告の過失により昭和四八年五月に発生した放送事故のときには、タワーテレビの技術事業部長が被告会社の運行技術部長に対して「顛末書」を差し入れたうえで、原告に対し注意をしたが、原告が被告会社に対して顛末書等の書面を差し入れた事実はなかった。

(7) 原告は、東通から被告会社のVTR班に派遣されていた植松一利の交替要員として、東通に採用されたもので、その交替の際に、右植松は原告に対し、二、三週間をかけて仕事の引継ぎと教育指導を行った。

(三)  原告の労働条件の決定等

(1) 原告は、日本電子工学院に在学中、東通からの求人案内を学校就職部を通じて知り、昭和四五年九月に東通に履歴書や成績証明書を提出して面接試験を受けた結果東通に採用された。そして、すぐに被告会社に行くように命ぜられ、被告会社に出社すると、東通の十二チャンネルにおける責任者である矢野政武から被告会社の高梨運行技術部長等の管理職に紹介され、原告が撮影業務に従事したいといったところ、高梨は矢野に対し話が違うと詰問し、矢野が原告に対しVTRで頑張るようにいって納得させ、原告はVTRの部屋へ連れていかれVTR班の人達に紹介された。

(2) 東通及びタワーテレビは、それぞれ就業規則を作成してその雇用している従業員に適用しており、原告の労働条件も右就業規則に従い決定されていた。すなわち、タワーテレビは、賃金については右就業規則に則り賃金台帳を備え付け、原告はタワーテレビから賃金、夏季及び冬季一時金を受領していた。また、タワーテレビは前記のとおり労働時間、休日、年次有給休暇日数等独自に定めていた。

なお、タワーテレビの就業規則は昭和四六年一二月一七日付けで三田労働基準監督署に届け出られている。

(3) 原告が所属し、被告会社の下請会社の従業員等をもって組織される民放労連東京地区労働組合(以下「東京地区労組」という。)は、東通ないしタワーテレビに対し、賃金や一時金、労働時間等の労働条件についての諸要求を提示し、その中で下請従業員の直傭化を被告会社等に働きかけるよう要求して、東通ないしタワーテレビとの間で交渉を行ってきた。東京地区労組は、昭和四五年一一月結成直後から被告会社に対して団体交渉を申し入れていたが、被告会社は、東京地区労組員とは雇用関係がないとして、団体交渉を拒否し、結局、民放労連東京十二チャンネル労働組合との事務折衝に東京地区労組の代表二名がオブザーバーとして参加することとなった。また、東京地区労組は被告会社に対し、下請会社従業員の直傭化を求めた。

(4) 被告会社は、右事務折衝において下請従業員に対し、夏季及び年末等に酒肴料名義の一時金を支給することを決め、各下請会社宛に支給し、右従業員に支払われていた。

(四)  福利厚生等

(1) タワーテレビは、その従業員を被保険者として健康保険や失業保険などの社会保険に加入しており、原告も同様の取扱いを受けていた。

(2) タワーテレビは、独自に各従業員のサイズにあった業務用の作業衣を用意し、着用させていた。また、出演者を含め被告会社の業務関係者が業務の関係で深夜遅くなった場合には、被告会社は自己の費用で自宅まで送り届けたり(深夜宅送)、宿泊室を利用させたり、深夜食を出したりする慣例となっており、原告も同様に取り扱われていた。

(3) 被告会社の送出部においては、親睦会があり、歓送迎会、転出の場合の餞別金の交付等を行っており、下請会社の従業員も参加していた。

他方、タワーテレビにおいても、新年会や忘年会を独自に行っており、その他親睦のための旅行やボーリング大会等のリクレーションに対し補助金を支給していた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

なお、原告は、《証拠省略》によれば、原告の勤務態度等の評価を記載した成績考課表である乙第一五号証の一、二の評定者が当時被告会社に勤務しておらず、右成績考課表は虚偽のものである旨主張するが、《証拠省略》によれば、右評定者は被告会社の録画班におけるタワーテレビの責任者の上司であり、右責任者の意見を聴取して人事考課をしていたことが認められ、右評定者が被告会社において業務に従事していなかったからといって右成績考課表が虚偽のものであるということはできない。

3  しかして、右認定の事実即ち原告は入社以来一貫して被告会社の定めた日程の中でその指揮に従って録画業務に従事していたこと、原告が被告会社の週休希望表に記入することにより事実上勤務形態が定まり、原告ら下請従業員はそれに従って業務に従事していたこと、したがって、被告会社は、事実上右下請従業員の休暇を把握し、また、右下請従業員にも緊急連絡場所等を申告させていたこと、また時間外勤務の要否は概ね被告会社の判断に任せられていたこと、原告所属の東京地区労組の代表がオブザーバーとして参加している被告会社と民法労連東京十二チャンネル労働組合との間の事務折衝において、夏季及び年末の酒肴料名義の一時金が支給されることが決められていたこと等の事実に、前記1(二)で認定の被告会社と原告との間に相当強度の指揮命令関係が存した事実を併せ考えると、その限りにおいて右の両者間に雇用関係が存したと評価し得ないわけではない。

しかしながら、また右認定の各事実によると、原告は被告会社に面接のうえ採用されたわけではなく、東通から被告会社の録画班に派遣されていた植松一利の交替要員として単に被告会社に派遣されてきたものであり、被告会社は原告という特定の人物に着目して業務を遂行させるようになったものではなく、単に東通から派遣されている従業員のうちの一人が交替したと捉えていたにすぎないこと、東通時代には原告に対する勤務及び労務の管理が十分ではなかったが、タワーテレビが東通の業務を引き継ぎ、原告らがその移籍に同意をして被告会社の業務を行うようになってからは、タワーテレビは、その就業規則において独自に勤務時間、休暇等を定め、出勤表を用意するなどして原告ら従業員の勤務状況の把握に努め、現場責任者等を介して従業員の評価を行うと共に、原告ら従業員に対し、賃金、一時金等を直接支払っており、その従業員を被保険者として各種社会保険に加入しており、また原告らの属する東京地区労組はタワーテレビに対し労働条件の改善等の諸要求を掲げてこれと交渉していることが明らかであり、かかる事実に鑑みると、タワーテレビは原告ら従業員の雇用主として独自に指揮命令権を有し、労務管理を行っており、原告ら従業員に対し、賃金等労務の対価を支払っているものというべきであって、原告が、少なくともタワーテレビの支配関係を離れて、直接被告会社の指揮命令の下に拘束を受けて就労する状態にあり、直接原告と被告会社との間に黙示の労働契約が成立していたということは未だできない。

四  また、原告は、東通及びタワーテレビの法人格を否認して、原告と被告会社との間の直接の労働契約の成立を主張し、昭和五一年八月一二日及び同年一一月一一日に、被告会社が原告主張の行政機関から、タワーテレビとの間における契約関係につき労働者供給事業禁止等に触れる旨の指摘を受けたことは当事者間に争いがないところ、《証拠省略》によると、右行政機関が右につき是正措置を講ずるように指導勧告を行ったことが認められるが、《証拠省略》によると、東通は、昭和五六年五月現在で資本金一億五〇〇〇万円で従業員二五〇名の株式会社であり、タワーテレビは、昭和五一年一〇月現在で資本金五〇〇万円で、定款を備え、放送番組その他録音・録画物、映画の企画、制作、販売等を目的とする株式会社であることが認められ、右の事実に前記三2認定の事実を総合すると、東通及びタワーテレビの法人格が形骸化し、両者が被告会社と実質的に同一人格であるということは到底できないし、被告会社が違法な目的をもって本来なら法律上負わなければならない使用者としての責任を免かれようとして東通及びタワーテレビの法人格を濫用したということも到底できない。

したがって、東通及びタワーテレビの法人格が形骸化していること等を前提とする原告の主張は理由がない。

五  よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福井厚士 裁判官 酒井正史 裁判官川添利賢は転勤につき署名押印することができない。裁判長裁判官 福井厚士)

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